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研修費等の返還条項について

2021年10月07日

●研修費等の返還条項

 従業員に研修を受けさせた場合や資格取得費用を援助した場合に、その後一定期間勤務しない場合には、研修等の費用を従業員から返還させたいと考えることがあると思います。
 しかし、賠償予定の禁止を定めた労働基準法第16条との関係で、研修費等を返還させることを定めたとしても無効になってしまうケースがあります。
 そこで、どういった点に気を付けるべきであるのか、以下で解説をします。

  1. 契約の形式
     労働基準法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めています。
     ストレートに「従業員は、研修受講後●年勤務しなかった場合には、当該研修費用を返還しなければならない。」と就業規則や個別の契約で定めたとしても、一定期間勤務しなかったという『労働契約の不履行』について、当該研修費用を返還させるという『違約金』を定めたものと解され、労働基準法第16条違反として無効と なってしまいます。
    そこで、契約の形式で無効とならないようにするためには、研修費等の相当額を従業員に貸付ける契約(金銭消費貸借契約)をして、一定期間勤務した場合に貸付金の返還を免除するという契約にすることが必要となります。
  2. 返還を求める費用の性質
    ⑴ 原則
     研修等が、直接担当業務と関係する内容であったり、自社における教育訓練や能力開発として行われたり、業務命令として受講することが命じられているなど業務性を有している場合には、当該研修等の費用は使用者が負担すべきと解されます。そのため、金銭消費貸借契約の形式をとっていたとしても、実質的に労働基準法第16条に違反するものとして無効となります。
     最近では長崎地判令和3年2月26日(親会社が主催するセミナー受講料等の返還を求めたが労働基準法第16条違反で無効となった事例)などがあります。
     他方で、研修等が業務性を有しない場合には、労働基準法第16条違反とはならず、一定期間勤務しなかった場合には、金銭消費貸借契約に基づき従業員に対し研修等の費用の返還を求めることができます。
     最近、証券会社が、留学費用約3000万円の返還を求めた裁判で証券会社の請求が認容されたことが話題になりましたが、これは社内公募型の留学制度の実態が業務性を有しないと判断された事例でした(東京地判令和3年2月10日)。
    ⑵ 例外
     上記⑴の通り、原則として研修等が業務性を有する場合には、当該費用の返還は認められませんが、例外が存在します。
     それは、研修等により、国家資格など退職後も利用できる個人的な利益を従業員が享受できる場合には、研修等が業務性を有する場合であっても、返還が免除されるまでの期間や返還を求める金額なども考慮して、当該費用の返還が認められる場合があります。
     タクシー会社の事例ですが普通自動車第二種免許を取得する費用(約20万円)を貸し付け、出勤率80%以上で2年間勤務した場合に返還免除するという返還条項を有効とした事例(東京地判平成20年6月4日)があります。
     ただし、研修等により個人的利益が得られるとしても、返還を求める金額が高額になったり、免除するまでの期間が長期間となる場合には、労働基準法第16条違反と判断されます。
     広島高判平成29年9月6日では、医療法人が、自己の運営する医療施設に一定期間勤務することを条件として看護学校の学費を貸し付ける制度を設けましたが、返還免除までの期間が6年と長期間であったことや、返還額も看護学校在学中に支給されていた給与の10倍超であったことなどから、看護師という汎用性のある資格を取得できたとしても、労働基準法第16条に違反すると判断されました。
  3. まとめ
     一定期間勤務をしなかった場合に研修等の費用を従業員に返還を求めることができるかどうかは、次の点に注意するようにしましょう。
     ①研修等の費用相当額を従業員に貸付ける契約となっているかどうか
     ②研修等に業務性があるかどうか
     特に、②において研修等に業務性がある場合には、原則として無効となるリスクが高くなることから、そもそも返還を求めるのか否かという点からよくご検討いただくことが必要となります。