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問題社員対応について
2024年06月05日
業務指示に従わない従業員を、特定の業務から外すことは、業務を円滑に遂行するための手段として良く行われます。一般に、労働者には就労請求権(使用者に対し、自己を就労させることを請求する権利)は無いと解されており、労働者から外した業務に従事させるように求められたとしても、原則として応じる必要はありません。
しかし、そもそも特定の業務から外す業務上の必要性を基礎づける事情が認められないと、違法と判断される可能性があります。特に、特定の業務と賃金が紐づいており、特定の業務から外したことによって、賃金の減少を伴う場合には、より注意が必要です。
そこで、業務指示に従わない従業員を、特定の業務から外すにあたって注意すべき点について、下記裁判例を通してみていきます。
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事案の概要
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裁判所の判断
(1)裁判所は、次のような事実認定をしました。
ア 24時降りへの不協力について
Aが24時降りしなかったのは、平成30年2月5日と令和元年6月3日 の2回だけであり、その際、配車係から24時降りに協力しなかったことについて指摘を受けた。しかし、Aと配車係が所属する事業所の所長は、Aと配車係とのやり取りを知りながらAに対して注意することは無かった。
イ 早朝出荷時のFAXの送信確認を怠ったことについて
問題があったのは令和元年12月3日の1回だけであったこと、問題が発覚した直後に、所長がAと話をしているが、所長がAに対して注意することは無かった。
ちなみに、早朝出荷時に運転手にFAXが送信されているか出荷先に確認する義務があったかどうかについては認定していません。
(2)裁判所の判断
上記(1)の事実認定に基づき、会社側が問題とする行為が数回に過ぎなかったことや、Aに対して注意することが無かったことから、出張業務や早朝業務を配車しなくなったことに、業務上の必要性があったとは認めがたいと認定しました。
また、Aは、事前に、収入が減少するおそれがある旨の注意や警告を受ける機会を付与されないまま、出張業務や早朝業務を配車されなくなったことにより、長期間手当相当額が減収となり、著しい不利益を受けたと認定しました。
これらのことから、会社がAに対して出張業務や早朝業務を配車しなくなったことは裁量権を逸脱しており違法であるとして、不法行為の成立を認めました。 -
裁判例からの教訓
会社側の主張からすると、Aが日ごろから態度の
良くない従業員であり、口答えばかりしていて所長や配車係も注意しても無駄であると諦念していたようです。 しかし、注意しても治らないからと言って、注意することをやめてしまったり、注意した証拠を残していないと、いざ何か対応を取る際に、上記裁判例のような事態に陥ります。
そのため、問題社員へ対応する場合には、①問題行動に対する注意指導を必ず行い、②注意指導を行った証拠を残し、③注意指導に従わない場合にはそのことを示す証拠も残しておくということを徹底していただくことが必要です。
Aが勤務する会社では、出張業務(原則片道250km以上の長距離運行)をした場合に支払われる出張手当と、早朝業務(午前8時以前に出社)をした場合に支払われる早朝手当の支給がありました。
この出張手当と早朝手当の金額を決定付ける配車を具体的に決定し指示する権限は、配車係の従業員にありました。
Aには、平成30(2018)年12月から令和元(2019)年11月までの間、出張手当と早朝手当が合計で月平均12万9568円支給されていました。この金額は、Aの賃金総額の26%程度に相当するものでした。
令和元年12月以降は、出張手当の付く配車がなくなり、早朝手当の付く配車もほとんどなくなりました。これは、Aが、会社が協力を依頼した『24時降り』(※)に協力せず、『24時降り』できなったときの報告も怠ったこと、及び早朝出荷時に運転手が前日に会社から送付されるFAXが送信されているか出荷先の企業に確認しなければならなかったがAがこれを怠ったことを主な理由としていました。
Aは、この会社の措置が、他の運転手と同等の評価基準に基づいて、他の運転手と差別されることなく、配車を受けられる期待権を侵害した不法行為に当たるとして、訴訟を提起しました。
※『24時降り』とは、高速道路上のサービスエリア等において24時まで駐車して待機した後、高速道路を降りることを意味し、これにより高速道路代が割引(当時30%から50%)となり経費を節約することができます。