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残業の許可制の適正な運用
2020年02月20日
●残業の許可制の適正な運用
残業の許可制は、制度が適正に運用されていれば、使用者が許可した時間だけが労働時間とされ、労働者が許可された時間を超えて働いたとしても、原則として、その時間は労働時間とはされません。そのため、残業の許可制は、無駄な残業を減らすために有用な制度といえます。
こうした利点があるため、多くの企業で残業の許可制が導入されていますが、他方で適切な運用がなされていないため労働者が使用者の許可を得ないで残業していた時間も労働時間であると認定されてしまう例も多く目にします。
そこで、今回は過去の裁判例における成功事例と失敗事例を紹介し、残業の許可制を導入する場合、どのような点に注意すべきなのかを見ていくこととします。
◆失敗事例 東京地裁判決平成30年3月28日(労経速2357号14頁)
会社は,残業承認制度を通じて,当日に残業をしてまでも行わなければならない業務であるかの仕分けを行うなどしてきたが,労働者は,同制度に従わず,事前に残業申請を行い会社の承認を得ることなく,又は会社の承認時刻を超えて,当日行わなくてもよい業務を会社に隠れて行ったなどと主張しました。
しかし、裁判所は次のように判断をして、会社の主張を認めませんでした。
- 会社代表者は,午後7時過ぎ頃に退社する際に会社に残っている労働者を見かけるとともに、労働者から深夜にメールを受信することもあったほか,労働者に対して事前の残業申請がないことを理由に本件管理帳の退社時刻の記入の修正を求めた際にも,忙しくて残業申請する時間がなかったのは言い訳にならず,会社の規律に従うよう伝えるにとどまり,残業そのものを否定していなかったと認められる。
- 会社が労働者に対して所定労働時間内にその業務を終了させることが困難な業務量の業務を行わせ,労働者の時間外労働が常態化していたことからすると,本件係争時間のうち労働者が会社の業務を行っていたと認められる時間については,残業承認制度に従い,労働者が事前に残業を申請し,会社代表者がこれを承認したか否かにかかわらず,少なくとも会社の黙示の指示に基づき就業し,その指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当であり,割増賃金支払の対象となる労働時間に当たるというべきである。
<失敗事例の教訓>
労働者の時間外労働が常態化している状況で、許可を得ずに残業していることを認識していながら残業を明確に禁止しないと、残業の許可制が形ばかりのものになっていると判断され、許可を得ていない残業も労働時間と認められてしまいます。
☞ 対 策
許可を得ずに残業している労働者を発見した場合、その場で口頭により注意することも重要ですが、後で同様の内容を書面やメールなどで改めて伝えておくことが望ましいです。
◆成功事例 東京地裁判決平成25年5月22日(労働判例1095号63頁)
労働者は、建物入り口で入館時及び退館時に打刻させられていたタイムカードによって、労働時間を把握すべきと主張しましたが、裁判所は「時間外勤務命令書」に記載された時間によって労働時間を把握すべきと判断しました。
上記の判断に至るポイントは次のとおりです。
<成功事例のポイント>
成功事例の会社が行ってた次の2点のポイントは、残業の許可制を導入する企業では是非取り入れて欲しいと考えます。