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自然災害による休業
2020年11月16日
●自然災害による休業
近年日本では,台風や豪雨による被害が頻発しています。これら自然災害により施設・設備等に被害を受けるなどして,労働者を休業させざるを得なくなるケースも出てきます。
そこで,今号では自然災害の影響で労働者を休業させた場合に問題となることが多い,休業手当の要否を中心に説明をいたします。
- 自然災害により,事業場の施設・設備が直接的な被害を受け,労働者を休業させる場合
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自然災害により,直接的な被害は受けていないが,取引先の被災や道路の寸断などにより,原材料の仕入れ,製品の納入等が不可能なったことにより,労働者を休業させる場合
事業場の施設・設備が直接的な損害を受けていない場合には,原則として「使用者の責めに帰すべき事由」による休業に該当し,休業手当の支払いが必要と考えられます。
ただし,自然災害による被害の大きさなどによっては事業場の施設・設備が直接的な損害を受けていない場合であっても,「使用者の責めに帰すべき事由」による休業に該当しない可能性もあります。
この判断には,取引先への依存の程度,輸送経路の状況,他の代替手段の可能性,災害発生からの期間,使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案して判断することになります。◆ワンポイントアドバイス
休業手当を支給する場合,雇用調整助成金が活用できる場合があります。
雇用調整助成金は,景気の変動等「経済上の理由」により,事業活動の縮小を余儀なくされた使用者が雇用を維持するために休業を実施する場合に,休業手当の一部を助成するものです。
事故又は災害により施設等が被害を受けたことは通常は「経済上の理由」にあたらず,休業手当を支給しても雇用調整助成金の受給対象とはなりません。しかし,自然災害の長期化や復旧まで長期間かかる場合には,交通手段の途絶等による原材料の入手,製品出荷の困難となること等を理由として,事業活動の縮小が行われた場合には「経済上の理由」に該当し雇用調整助成金の対象となることがあります。雇用調整助成金の受給には様々な要件がありますので,具体的に受給できるかは,最寄りの労働局またはハローワークにお問い合わせください。
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自然災害による交通機関の乱れを見越して従業員を早退させる場合
交通機関の乱れが予想されるにとどまり,その時点で業務遂行に支障がない場合には,不可抗力によるとは言えず,「使用者の責めに帰すべき事由」による休業に該当し,休業手当の支払いが必要と考えられます。
早退させる場合,1日の所定労働時間の一部が休業となった場合,その日に就労した時間に対して支払われる賃金が,平均賃金の100分の60に相当する金額に満たないときは,その差額を支払う必要があります。◆ワンポイントアドバイス
自然災害の影響により,始業前から交通機関が不通となっており,ほとんどの従業員が出勤できず,事業所近くの出勤可能な従業員だけでは,業務の遂行ができない状態であれば,不可抗力として,使用者の責めに帰すべき事由による休業にはあたらず,休業手当の支払いは不要となる可能性が高いです。 -
自然災害による交通機関の乱れにより,従業員が出勤できなかった場合の賃金の取扱い
この場合には,原則としてノーワーク・ノーペイにより,賃金の支払いは不要です。ただし,就業規則等に特別の規定があり賃金その他手当を支給することになっている場合には,当該規定に沿って賃金等の支給が必要となります。
ただし,天災事変等の不可抗力の場合は,使用者の責めに帰すべき事由に当たらず,使用者に休業手当の支払い義務はありません。
ここでいう「不可抗力」とは,①その原因が事業の外部より発生した事故であること,②事業主が通常の経営者として最大の注意をつくしてもなお避けることができない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。
自然災害により,事業場の施設・設備が直接的な被害を受け,労働者を休業させる場合は,休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり,事業主が通常の経営者として最大の注意をつくしてもなお避けることのできない事故に該当すると考えられるので,通常は使用者の責めに帰すべき事由による休業にはあたらず,休業手当の支払いは不要となります。