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労働時間とそれ以外の時間の区別

2022年08月04日

 一般的には、労働者が、実際に手を動かして業務を行っている時間を、労働時間と呼ぶことが多いです。
 しかし、労働基準法上の労働時間は、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるもの」(最小一判平成12年3月9日・三菱重工業長崎造船所事件)とされています。
 つまり、労働者が、実際に手を動かして業務を行っていない時間であっても、使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価できる時間は、労働基準法の労働時間となり、通常の賃金や割増賃金支払いの対象ということになります。
 もっとも、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間と評価できるか否かは、似たような状況でも、少しの事情が変わることで変わってきます。
 そこで、労働時間に当たるか否か問題となることが多い場面で、どういった事情があると労働時間と判断されやすいのか、反対にどういった事情があると労働時間と判断されにくくなるのかを見ていきます。

  1. 着替えの時間

     始業時刻前の作業着や制服への着替えは、業務を行う前の準備行為であり、業務行為そのものではありませんが、次のような事情の有無により、労働時間に当たるか否かが変わってきます(終業時刻後の着替えについても基本的に同様です)。

    ・労働時間になる場合
    就業にあたり、作業着等への着替えが使用者から義務付けられており、かつ、着替えを会社の更衣室など会社の指定した場所で行わなければならないとされている場合
    ・労働時間にならない場合
    ①作業着や制服が用意されているが、作業着等への着替えをするかどうかは、労働者の判断に委ねられている場合
    ②就業にあたり、作業着等への着替えが使用者から義務付けられているが、自宅から作業着等を着てきても良いし、会社で着替えても良いことになっている場合

     ①は、着替えに関する使用者の指揮命令が無いため、着替えを行う時間に使用者の指揮命令下にあるといえないため、労働時間と評価されません。
     ②は、着替えに関する使用者の命令があるものの、着替えの場所に関する拘束性がないため、労働時間と評価されません。この場合には、紛争のリスクを下げるため、自宅から作業着等を着てきても良いことを、書面等で明示しておくことをお勧めします。

  2. 朝礼・清掃

     始業時刻前に、朝礼や清掃を行う企業もあり、この朝礼や清掃の時間が労働時間に該当するか否かが問題となる場合があります。

    ・労働時間になる場合
    ①使用者が始業時刻前の朝礼や清掃への参加を、労働者に義務付けている場合
    ②朝礼や清掃への参加が明示的には義務付けられていないものの、従業員間で当番化されており、それを使用者が知っていた場合
    ③朝礼や清掃への参加が明示的には義務付けられていないものの、参加しないことに対して人事評価において評価が下がるなど実質的なペナルティがある場合

     ②は、従業員間で当番化されていることを使用者が知っているにもかかわらず、朝礼等の中止を指示していないことから、黙示の指示があったと評価され、労働時間に当たると判断されます。
     ③は、実質的なペナルティがあることにより、朝礼等への参加が事実上強制されており、使用者が朝礼等への参加を指示していると評価され、労働時間に当たると判断されます。
     なお、従業員等が自発的に始業時刻前に朝礼等を行っていることを、使用者が知った場合には、後々トラブルになることを避けるために、朝礼等が業務上必要なのであれば、始業時刻後に行わせるか、始業時刻前であっても労働時間と認める、業務上の必要性が無いのであれば参加の義務はないことを周知するという対応を行うことをお勧めします。

  3. 待機時間

     待機時間とは、就業時間中に労働者が実際に作業を行っていない時間のことをいいます。待機時間が労働時間になるのか、休憩時間になるのかが問題となります。

    ・労働時間になる場合
    待機時間中に、作業の必要が生じた場合に直ちに対応することが求められる場合
    ・労働時間にならない場合
    即時の対応を求められることが無く、かつ、原則として場所的な拘束もない場合

     最近問題となっているワンオペ(労働者一人での勤務)では、労働者が事業所を離れられない場合が多く、そうした場合には待機時間中に労働から完全に開放されていないとして、待機時間であっても労働時間と判断されます。