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参考資料:団体交渉の参考事例

  1. はじめに
  1. 事例の概要
  2. 合同労組から団体交渉の申入れがあったときの初期対応(1)
  3. 合同労組から団体交渉の申入れがあったときの初期対応(2)
  4. 団体交渉のルール設定(平成22年3月15日D法律事務所にて)
  5. 団体交渉上の留意点(1)(平成22年4月15日D法律事務所にて)
  6. 団体交渉上の留意点(2)
  7. 落としどころ探る場合の留意点(平成22年5月15日D法律事務所にて)
  8. 労使協調の合同労組に対する留意点(平成22年6月15日D法律事務所にて)

はじめに

労働者が、労使間でのトラブルの解決方法として、合同労組に加入して団体交渉を使用者に申入れる例が多くあります。合同労組は、日本全国にあり、柔軟路線をとる組合からイデオロギー性の強い労使対立路線の組合まで幅広くあります。また、労使対立路線の組合の中にも、落としどころを考える組合とあまり考えない組合があります。一方で、ナショナルセンター(たとえば連合)に属している合同労組でも労使協調路線ばかりではありません。さらに、組合の交渉担当者によっても対経営側への対応が変わってくることがあります。
合同労組の性格は千差万別ですが、団体交渉の申入れとそれに続く団体交渉については、共通した留意点があります。合同労組への対応も合同労組の情報を収集しつつ団体交渉の留意点を押さえて臨機応変に対処していけば、労使間の自主的な交渉で話がまとまる場合も多くあります。しかし、対応を間違えると労使関係が不必要にこじれます。合同労組が不合理な要求に固執した場合は断固それを拒否する必要もありますが、必要以上に労使関係をこじらせるのは得策ではありません。
本稿では、団体交渉に余裕を持って臨むために、合同労組から団体交渉を申入れられた事例をもとに、団体交渉の留意点を紹介したいと思います。

1.事例の概要

A社は、正社員20名、契約社員40名の商社でした。しかし、リーマンショック以降景気の悪化もあって、受注が減り、契約社員の雇止めをすることにしました。部長であるBは、契約社員10名を雇止めにすることにし、自分の判断でその対象者を選びました。雇止めになった契約社員のうち5名が合同労組の「合同ユニオンC」に加盟し、「Aユニオン」を結成し団体交渉の申入れをしてきました。
A社のB部長は、顧問の社会保険労務士の紹介で、経営側の労働問題を得意とする弁護士Dを訪問し、団体交渉について相談することになりました。

2.合同労組から団体交渉の申入れがあったときの初期対応(1)

(平成22年1月15日D法律事務所にて)

部長・・・という状況で、今回はC労働組合への対応をご相談したいと思って参りました。先生、C労組とはどのような組合でしょうか。

弁護士私は、東京や地方の合同労組に対する団体交渉をよく頼まれます。C労組とも何回か交渉したことがあります。団体交渉で話がまとまらず法廷で決着したケースと、団体交渉で妥結したケースがあります。ところで、組合からはどのような書面が届いていますか。

部長労働組合結成通知、団体交渉申入書、暫定労働協約などですPDFアイコン書式1) PDFアイコン書式2) PDFアイコン書式3)。これらは、送られてきたのではなく、本社を突然訪れたC労組の幹部2名が持参してきました。その時は私が対応したのですが、当社には組合がなく、組合と交渉したこともなかったので、いやぁ、びっくりしました。

弁護士団体交渉の申入れを受けると驚きますが、慌てて行動を起こすのが一番まずいと思います。慌てて、組合の言うことを丸呑みするのもいけませんが、全て拒否するのもいけません。御社としては、今後、①組合に対し回答猶予の回答書の提出、②団体交渉の申入れ書類に不明点があればその点の問い合わせも含む回答書の作成、③具体化された協議事項に対する回答書の作成、または④団体交渉のルールおよび団体交渉の日程調整に対する回答書の作成、⑤会見し協議する団体交渉という段取りでことを進めていくのがよいと思います。

部長「回答猶予の回答書」とはどのようなものでしょうか。

弁護士団体交渉申入書には、団体交渉の日時場所が指定されていますが、それに従う必要はありません。団体交渉の申入れがあった場合、使用者としては、申入れ事項を検討し回答をする、または面談による団体交渉をするのに当然準備のための合理的な時間を必要とします。しかし、なにもせずにいると団体交渉を拒否したとして労働委員会に不当労働行為の申立をされてしまうおそれもあります。そこでまず、回答に時間的猶予を求める旨の回答書を出すことになります。回答書のひな形をお渡ししますので参考にしてくださいPDFアイコン書式4)。第一弾の回答書のポイントは、会社の代表者名義では、出さず、今後窓口となる者の名義で出す点と、当面書面にてのやりとりを求める点です。

部長当面書面でやりとりすることを求めるメリットはどこにありますか。

弁護士組合から電話等での問い合わせで業務に支障が出るのを防ぐことができます。

部長「問い合わせを含む回答書」とはどのようなものですか。

弁護士団体交渉の申入書をみると、(1)で契約社員の雇用関係についてとありますが、具体的な交渉の議題がはっきりしません。まずその具体化をもとめるべきです。(2)で不当労働行為をしないことというのが議題にあがっていますが、これも理由を示して議題にあげる必要性がないと回答すべきです。(3)のその他については、「内容がはっきりしないので回答できない」とすべきです。回答書PDFアイコン書式5)については、私の方で具体的に書いてお渡ししましょう。なお、暫定労働協約については団体交渉の協議事項に明示されていないので、あえて触れないほうがいいと思います。組合も暫定労働協約をひとまず送っているというだけで、真剣に団体交渉事項とするつもりがない場合があります。

部長先のことになりますが、この質問に対し組合から回答が来たらどうするのですか。おそらく雇止めの撤回が具体的な議題になると思います。

弁護士会社としては、当該対象者については雇用契約の期間が満了により雇用契約が終了したもので、なんら問題がない旨回答することになると思います。これも私のほうで回答書を作って差し上げましょう。

部長ありがとうございます。ひとまずその方針で進めてみます。

ポイント

3.合同労組から団体交渉の申入れがあったときの初期対応(2)

1.合同労組に対する基本姿勢

合同労組からの団体交渉の申入れがなされた場合、合同労組に対しどのような基本姿勢で対応すべきかを検討します。

(1)労使関係の基本・団体交渉が出発点
最初に、労働組合と使用者との間の労使関係(団体的労使関係)の基礎にある個々の労働者と使用者との間の「個別的労働関係」はそもそも何かということを基本的なところから考えてみます。
個別的労働関係というのは一言で言えば、労働者が労働力を売り、使用者は、賃金を出してこれを買うという法律関係です。したがって一般的な売買などの取引と同様に、個別的労働関係も当事者間の話合いで決めていくのが原則です。
ところが、労働力というのは、例えば机とか椅子の売買とは違った特色があります。机とか椅子とかを売るのであれば、一度にまとめて売りその売上で次の1カ月生活することも可能です。しかし、売るものが労働力しかないということになると、1カ月に1日、まとめて12時間働いて1カ月分の賃金を得るということは通常できません。労働者は労働力を毎日売っていかなくては生活できません。特に未熟練労働者は労働力を安売りせざるを得ず、労働者の労働条件が低下する可能性があります。
そこで、この取引を集団でやることを認めましょうというのが労働組合の団体交渉です。未熟練労働者が個々人で使用者と労働条件を交渉していたら、労働条件が下がってしまいます。そこで未熟練労働者がまとまって労働条件を取引するために労働組合の団体交渉権が本来認められたのです。
ですから、当事者間の合意で労使関係を決める労使自治が労使関係の基本ということになります。よく「労使自治」といわれますが、契約の基本にある「私的自治」のことです。ですから、労働組合からいろいろと団体交渉を申し入れられた場合も、私的自治の延長線上の話なのです。本来、労使関係も当事者間で決めるのが基本なのです。それがたまたま労働力の特殊性から集団的な取引という形になっているにすぎないことを理解すれば、冷静に対応できるはずです。使用者は、団体交渉を正当な理由なくして拒否せず、その過程で労使関係を解決していくことが重要です。
もちろん労働組合は交渉相手ですから、使用者と緊張関係にあります。交渉相手の話を聞く必要がありますが、使用者もはっきり主張することが大事だと思います。「話も聞くけれど、こちらの話もしっかり聞いてくれ」という姿勢が団体交渉の基本です。話合いで決着がつかないときに初めて、労働委員会のあっせんとか法的な手続きとかに入っていくのが本来の筋です。一応、団体交渉をしっかりしておけば、それで話がまとまらなくても次のステップにつながります。
また、合同労組がビラ配布などの情宣活動などをする危険も最小限に止めることができます(まったくなくなるわけではありません。交渉前の先制攻撃で情宣活動をする組合もあります)。労使自治だから団体交渉が基本なのだという意識の下に、誠実に団体交渉をすることによって、たとえ話がつかなくても、次のステップに比較的スムーズに移行できるのです。

ポイント

(2)団体交渉の意義
団体交渉権は、労働条件に関して労働者の交渉力を強化する手段です。正当な理由がないのに団体交渉を拒否することはできません。「では、使用者にメリットはないのか?」というと、そうでもありません。使用者側にもメリットはあります。それは、合同労組についていえば、組合員との交渉の統一化と労使平和の達成ということになります。
組合員との交渉の統一化というのは、少なくとも組合員については労使関係を一括で把握できる、複数の問題や複数の組合員の事柄を一括で解決できるということです。それから、団体交渉をしている限りは、情宣活動等を起こさずに平和裏に当事者間で解決できる可能性が高まります(あくまで可能性です)。やはり、中小企業・零細企業にとって、情宣活動を会社や取引先の前で行われるといろいろ影響が出る場合があります。その可能性を下げることができます。

ポイント

(3)使用者の誠実交渉義務
団体交渉において使用者には、「誠実交渉義務」が課されます。これは、使用者が、組合の要求や主張に対して、その具体性や追及の程度に応じた回答や主張をなし、必要に応じてそれらについて論拠を示したり必要な資料を示していく義務があるというものです。ですから、組合から質問を受けたら、それについて具体的な回答をし、必要な資料を出して、説明していきます。それによって合意点があれば、その合意をする、そういう誠実交渉義務が会社には課されることになります。
団体交渉の際に社員を1人出席させて、単に「話を承っておきます」「あとはすべて会社に持ち帰ります」という伝書鳩のような交渉になってしまうと、誠実交渉義務に違反することになります。
「では、合意しなければいけないのか、譲歩しなければいけないのか?」というと、その必要はありません。誠実に交渉していくことは大事ですが、必ずしも譲歩する必要はありませんし、必ずしも合意しなければいけないということでもありません。使用者は組合の要求ないし主張を受け入れたり、それに対して譲歩をなす義務まではないのです。
ですから、誠実に交渉したにもかかわらず結果的に交渉が決裂してしまうこともやむを得ません。一生懸命説明したのだけれども最終的には合意に至らなかったら、それでも団体交渉は一旦終了となります。それは別に団交拒絶でも何でもないということになってきます。次のステージ、例えば労働委員会のあっせんとか、労働審判の申立てとかに移るだけのことです。

ポイント

2.団体交渉の具体的留意点

(1)合同労組の情報収集
最近は多くの合同労組がホームページを持っています。ホームページから、組合の活動状況がまずわかります。活動状況には、合同労組がどういう労働争議に関わっているのか、どういう事件に関わっているかということが書いてあります。これを見ると、組合の性格や傾向がわかってきます。ですから、活動状況をまず見てください。
次に活動方針です。これもよく読むと組合ごとに違います。それを丁寧に見ていく中で、統制のとれている団体なのか、横並びの組織で統制がとりづらい組織なのか、というのがわかってきます。
それが後々の対策に影響してきますので、活動方針もじっくりと見てください。
さらに、リンク先などから上部団体がわかります。連合、全労連・全労協、いずれにも属していないか等が、わかってきます。属する上部団体の性格に影響を受ける傾向がありますので参考になります。
組合幹部の名前や経歴などはホームページにはあまり書かれていません。組合のホームページを見ると、その組合が関係した出版物が紹介されている場合があります。その本を調べてみると、そこに組合幹部の名前、キャリアなどが書かれている場合があります。
インターネットや書籍のほかに、組合から組合結成通知とか団体交渉の申入れとか暫定労働協約などが送られてきます。それを分析するのも極めて大事です。これについては後述します。

ポイント

(2)交渉担当者や組合加入者の確認
前述したように、組合の交渉担当者や組合加入者によっても姿勢が変わってきます。組合の交渉担当者も、気の長い人から気の短い人までいます。組合の交渉担当者も年齢とともに柔軟になってくる方もいます。
統制力を最後に発揮できる人、組合員をまとめ上げられる人、それができない人様々です。
それから、組合員です。組合も加入組合員の意向を基本的には尊重するので、加入組合員が強硬なら組合も強硬になりがちです。
ホームページの組合の活動方針をよく読むと、組合員間の平等を強く主張している場合があります。そのような組合の中には、団体交渉の席に交渉委員として2~3人が出てきて、一体誰が交渉担当者の中心なのかはっきりしない場合があります。
こういう組合は、要注意です。加入組合員の意向がより強く影響する場合があるからです。

ポイント

(3)組合への対応を誰に頼むのが
組合への対応を自社でなかなかできないので、顧問の社会保険労務士や弁護士に相談するというのはよいのですが、これをそれ以外の人に頼むのは要注意です。
よくあるのは、組合のことは組合の事情がわかるからと、別の労組関係者に対策を依頼するケースです。団体交渉を申し入れられた会社の幹部が、別の労働組合関係者に話をつけてもらおうというケースもあります。
一昔前はそれでうまくいったこともあったようですが、当該組合に別の組合の関係者が話をすることが、かえって当該組合の闘争心に火をつける場合もあります。仮に別の組合の関係者が当該組合の幹部に話をしたとしても、今は、権利意識も高まっているので、幹部のいうことに「はい、そうですか」といって一般の加入組合員が従う時代ではありません。
組合幹部が無理に加入組合員を説得しようとすると、加入組合員がその組合を辞めて、もっと別の過激な組合に行ってしまうか、労働側の弁護士に解決を頼んでしまうという時代です。ですから、別の組合の関係者から話をつけるというのは気を付けたほうがよいでしょう。
場合によっては、これは不当労働行為になる可能性もあります。「会社が、ほかの労働組合に手を回して、組合活動を抑えるように支配介入した」などといわれ、今後の交渉がやりにくくなります。この辺のリスクもありますから、団体交渉の申入れがあった場合は、そういう裏技ではなく、正面からやっていくのがベターです。
また、使用者と組合員の双方をよく知っている第三者に組合対策を依頼することも散見されます。使用者は、団体交渉が決裂した場合、どういう結果に至るのかというところまで予見したうえで交渉に臨む必要があります。そのために、団体交渉では弁護士などの専門家の協力が必要な場合が多いのですが、使用者と組合員の双方をよく知っているだけの第三者は残念ながらそのような予見ができません。また責任を持って交渉をしません。そのような第三者に組合対策を依頼すると不利な条件で使用者が妥協せざるを得ない場合もでてくるので依頼しないほうがよいでしょう。

ポイント

(4)組合員の扱い方
使用者は、いろいろ気を遣ってあげた従業員が合同労組に駆け込んだ場合、悪感情を持ち、組合員を非組合員より不利に扱うようなことをする誘惑にかられることがあります。しかし、これは絶対にしてはいけません。例えば、有給休暇の扱いをより厳格にするというようなことです。
会社にとってみれば、合同労組に入ってしまったその組合員は煙たい存在でしょう。けれども、非組合員に認めることをその合同労組員には簡単には認めない、手続きを厳格にする、ということになってしまうと、これも不利益取扱いということで不当労働行為になる可能性があります。

ポイント

(5)落ち着いた対応
労働組合から様々な通知が来て、びっくりしてしまって、団体交渉を正当な理由なく拒否したり、組合の言いなりになって団体交渉に応じて、組合から「暫定労働協約の締結にすぎないから応じてください」と言われ、「はいはい」と言って締結してしまうと、後述するように大変に不利な拘束を会社が受ける場合もありますから、注意しましょう。
団体交渉の準備の時間を十分とることがまず基本です。準備の時間を取らないと失敗します。労働協約も、安易に締結せず、よくよく吟味することが大事です。

ポイント

4.団体交渉のルール設定
(平成22年3月15日D法律事務所にて)

部長先日は、いろいろアドバイスを頂きありがとうございます。アドバイス通り「期間満了による契約終了であり、何ら問題ない」という回答書PDFアイコン書式6)を出したのですが、組合からは、案の定、「更新の手続きがしっかりなされていない」とか、「契約社員となる際、人事の担当者から原則として更新すると言われた」とかいう話が出てきて、さらに回答する必要が出てきました。また、組合からは、争点がはっきりしたのだから、書面ではなく面談での交渉をして欲しいとの要望が出てきました。当社としても、書面のやりとりだけですと時間がかかる可能性があることから、会社の実情も説明し理解を求めたいと考えております。

弁護士団体交渉の方法については、文書の往復や電話などによる協議は、当事者の合意に基づくものでない限り、誠実交渉義務を履行したことになりません(東京地判平2.4.11判時1352号151頁)。したがって、争点がはっきりし、その争点については書面のやりとりで双方の一応の見解と根拠が明らかになり、組合も今後は面談での交渉を求めてきている場合は、原則として面談での団体交渉に入る前提で、団体交渉のルールを決めるための回答書を作成してはどうでしょうか。

部長その回答書とはどのようなものでしょうか。

弁護士これもひな形をお渡しします。PDFアイコン書式7) 団体交渉のルールを設定するためのポイントがいくつかあります。

●第一に、面談による団体交渉をするにしても、組合事務所や貴社内は避けた方がいいでしょう。団体交渉がエンドレスになりかねませんし、貴社内を訪問した顧客にも紛争が知られるおそれがあります。
●第二に、交渉の時間は二時間程度にしてください。組合としては、経営者側が疲れて妥協するのをねらってくる場合もありますから。できれば時間制の貸会議室がいいと思います。
●第三に、時間帯は、就業時間外にしてください。就業時間内ですと業務に支障が出る場合もありますから。
●第四に、出席人数は、双方4名を上限とするとしてはどうでしょうか。使用者側は、発言者1名と記録係1名を最低決めておいてください。人数の上限を決めておかないと組合が多数で押しかけて圧力をかけてくることもありますから注意してください。
●第五に、録音やビデオ録画は行わないようにしてください。記録係がいれば記録保持としては十分といえるからです。

部長組合が、雇止めになった組合員が5名いるので6名から7名のメンバーを交渉委員として認めて欲しいと言ってくることはありませんか。また、録音をさせて欲しいと言ってくることはありませんか。

弁護士人数もあまりそれにこだわりすぎて団体交渉ができないと団体交渉拒否となる場合もあります。組合が雇止めになった元契約社員5名と上部団体の役員2名程度のことをいってくるなら、第1回に限りそれに応じ、以後は別途再協議としてはどうでしょうか。くれぐれも、無制限に組合の要求に応じるとそれが労使慣行となって、その変更ができなくなりますから注意してください。録音については、組合がしたいといってきたら、こちらもするということで対応してはどうでしょうか。組合だけが、録音するとそこに編集等されてもなかなかわかりませんから。

部長録画ということも要求してくることがあるのですか。

弁護士あります。組合は、「団体交渉が平穏に行われたことを明らかにするため」と主張しますが、録音をすればその目的は十分果たされますし、録画されると落ち着いた交渉ができません。組合にもよりますが、カメラを使用者側だけに向けて無言の圧力をかけるために録画をするケースもあります。気をつけてください。

部長わかりました。では、組合と団体交渉のためのルール作りのための書面のやりとりをしてみます。仮に書面のやりとりだけで、ルールが決まらない場合はどうしたらいいのでしょうか。

弁護士例えば、労使双方が2名ずつ出席する「団体交渉準備会」の開催を1時間程度で開催してみるという手もあります。準備会を開くと、本格的な団体交渉では建前が先行し落としどころが分からないので事前にその点を探ることができたり、組合の中心となる交渉担当者の人柄を知ることができるメリットもあります。しかし、準備会というのを組合が無視して団体交渉の本題に入ってくることがあるので注意も必要です。組合が、「使用者が団体交渉の準備と言おうが、組合としては団体交渉として臨む」と宣言しているような場合は、準備会を開くか慎重に判断してください。

ポイント

5.団体交渉上の留意点(1)
(平成22年4月15日D法律事務所にて)

部長組合と面談による団体交渉が開かれることになったのですが、今日はその具体的な対応方法についてアドバイスをいただきに来ました。組合は、最初に当社に来所した際、団体交渉には社長の出席をお願いしたいと言ってきましたが、どうしましょうか。

弁護士団体交渉では、使用者側の交渉担当者を決めます。社長など代表者が交渉担当者となると、団体交渉の席上で合理的な検討の時間もなく、決断を迫られるおそれがあります。代表者以外の交渉権限のあるものが団体交渉には出席すべきです。

部長組合から、妥結権限がない者が出席しないと困ると言われませんか。

弁護士妥結権限のあるものが団体交渉に出席しなければいけないと言うことはありません。交渉に応じたうえで、妥結については権限者と諮ることは当然に認められることです。

部長では、組合側の話を「承っておく」とだけいって団体交渉を終えてもいいのでしょうか。

弁護士いいえ、使用者には、労働組合の代表者と誠実に交渉する義務があります。すなわち、使用者は単に組合の要求や主張を聞くだけでなく、それらの要求や主張に対しその具体性や追求の程度に応じた回答や主張をなし、必要に応じて論拠を示し資料を提示する義務があります。したがって、実質的な交渉権限のないものによる見せかけだけの団体交渉は、誠実交渉義務違反として不当労働行為となります。

部長社会保険労務士に代理人として交渉してもらうことはできますか。

弁護士交渉権限を委任し交渉を代理してもらうことは、労働組合法6条で認められています。社会保険労務士の場合は、全国社会保険労務士連合会が、「労働協約の締結等のために団体交渉の場に、当事者の一方の委任を受けて、当事者の一方とともに出席し、交渉することは、処分権を持つ代理人になるなど弁護士法72条(非弁行為の禁止)に反しない限り、当然社会保険労務士の業務の範囲である」との文書を平成18年6月30日付で出しているので参考にしてください。私も使用者から団体交渉の依頼を受けた場合、顧問の社会保険労務士の先生に団体交渉の席に一緒に出席していただいたことが多々あります。

部長組合から、暫定労働協約の締結を申し入れられていますが、これも締結しなければならないのでしょうか。PDFアイコン暫定労働協約)

弁護士暫定協定の第1条、第2条は、一見すると問題がなさそうですが、労使対等を強調し、組合員の地位の向上と会社の発展を同レベルに並べています。そもそもクライアントへのサービスの提供により会社に利益が出なければ労働条件の向上は図れませんから、この協約は会社経営への重大な足かせとなる可能性があります。また第1条の組合員の社会的地位の向上というのもよくわかりません。このような協約を締結すると組合は、「会社は、組合員の経済的社会的地位向上を約束したではないか」といって、会社の状況を考えずに要求実現を迫ってくる可能性があります。第3条から第5条はAユニオンをA社の労働者の中心に置き組合による会社支配を目指すものといえます。労働協約は、労働契約を直接規律する規範的効力を有しますが、第3条はそれを超える効力を労働協約に与えるものです。また、労働協約は本来締結労働組合の組合員のみを規律しますが、第4条はそれを超える効力を労働協約に与えるものです。唯一団体交渉条項はそもそも他の組合の団体交渉権を侵害するものですから、第5条は無効です。このような協約を締結すると組合は、未組織の労働者に対してまで影響力を持つことになり、他の従業員がAユニオンに入るのを推し進める可能性があります。第6条の労働条件の変更については、常に組合に団体交渉を申入れなければならないとすることも特別な義務を使用者に負わせるもので慎重に判断すべき事柄です。このような条項を入れると組合員に関する事柄は広く団体交渉事項にせざるを得なくなり、組合による会社支配につながり経営権が侵害されるおそれもあります。第8条、第9条は、会社の本来有している施設管理権を制限するものです。第10条、第11条は、「これに関する一切の事項」を根拠に使用者が団体交渉を行うことを労組法によって義務付けられていること(義務的団体事項)を超える事項についてまで団体交渉において議題にすることを認め、会社に考える余裕を与えずに交渉を強いるものです。第12条は組合が多数で交渉の場で圧力をかけるのを認めるものです。第13条は議事録を労働協約と同等の地位に格上げするものです。 このように、組合の提案する暫定協定とは組合による会社支配を一気に進めるもので極めて危険なものです。もっとも、合同労組の場合、暫定協定を含む労働協約の締結を議題にしてきますが、必ずしもそれに固執しない例も多いようです。慌てて労働協約の話をしないようにしてください。

部長そんなに危険なものだったのですか。思わず締結してしまいますね。

弁護士組合も、暫定協定を何も考えずに結ぶようなレベルの会社かどうかをみています。このような協定を結んだら大変なことになります。

部長団体交渉をすると必ず妥結しなければならないのでしょうか。

弁護士使用者は、誠実に団体交渉をする義務を負いますが、使用者には組合の要求ないし主張を容れたり、それに対し譲歩をしたりする義務まではないので、十分な議論の後に双方の主張がなお対立し意見の一致を見ずに交渉打ち切りになる場合、誠実交渉義務違反となりません。

部長議事録のようなものは作成する必要があるのでしょうか。

弁護士組合は、よく議事録を作成し会社の記名捺印を求めてくることがあります。議事録の内容が組合に有利にできている場合もあるので、基本的には組合が作成する議事録に会社が記名捺印をするのは避けるべきです。組合には「議事録は組合と会社が各々作り保存しておけば十分ではないか」と言えばいいと思います。

部長交渉場所での座る場所などについてなにか配慮が必要ですか。

弁護士使用者と労働者が対面するように、しかもある程度離して席を設けた方がいいと思います。使用者はできれば、入り口に近い席にしましょう。いざとなったら安心して交渉を打ち切って引き上げることができます。もちろんテーブルや席の設定も会社側で行った方がいいので、会場には早めに行って、席を設定し着席して組合を迎えるようにするとよいと思います。

部長会社側の出席者の役割分担はありますか。

弁護士会社側を統括し発言をするもの1名と記録をとるもの1名は決めておきましょう。会社側の出席者は、あくまで統括者が発言を許可するまで発言はしないようにしましょう。よく、組合は、雇止めをした担当者が出席している場合、その者の発言を求めることがありますが、統括者が許可するまで勝手に発言しないように指導してください。

部長組合側の出席者が勝手に発言をする、特に不規則発言をするような場合はどのようにしたらいいのでしょうか。

弁護士会社側の統括者から組合の出席者の代表者に発言者を整理するように求めてください。

部長組合員が机を叩く等した場合はどうしましょうか。

弁護士団体交渉はあくまで話合いですので、落ち着いて話合いをするように促しましょう。もっとも、組合幹部も組合員の手前パフォーマンスをしている場合もありますが、このような行為が繰り返されるようなら交渉を打ち切っても正当の理由のない団体交渉拒否とはならないでしょう。

部長第1回の団体交渉の後はどのようになっていくのでしょうか。

弁護士団体交渉で論点を整理し、更に話し合っていくことになりますが、組合によってはあくまで多人数での団体交渉という形で話合いをまとめていくことに固執するタイプと、組合幹部に交渉権限を一任し組合幹部と会社との間で更に話し合っていくタイプに分かれます。前者の場合、どうしても建前論が先行し、話がまとまりにくいという傾向があります。後者の方が一般的に本音の話ができまとまりやすいという傾向があります。

部長キーパーソンとなる組合幹部との間で交渉を進めるにはどうしたらいいのですか。

弁護士組合の方から、少人数での交渉を求めてくる場合もあります。そのようなことがない場合は、折を見てこちらから少人数での交渉に切り替えないか提案することもあります。交渉の途中で行うことも、交渉の終了時に行うことも、交渉終了後電話で行うこともあります。

部長合同労組の場合、街宣活動をする場合があるといわれていますが、この点はどうですか。

弁護士組合によっては、会社が組合の要求に応じない場合、街宣車を出したりビラをまいたりすると言ってくる場合もあります。しかし、街宣活動をするには組合も人も集めなければならないなど手間がかかるので、街宣活動をすると言ったからといって必ず街宣活動がなされるわけではありません。したがって、狼狽する必要はありません。しかし、くれぐれも「街宣活動などしてもらっても構わない」など組合を挑発するような言動は避けてください。仮に組合が街宣活動を行った場合、ビラが会社の誹謗中傷に当たる場合もありますので、ビラは入手しておいてください。

部長先生の話をお聞きして、少し安心しました。今日はありがとうございました。

ポイント

6.団体交渉上の留意点(2)

1.面識による団体交渉の際の一般的な注意事項

(1)話し合うのが基本
使用者は組合がどのような態度で団体交渉に臨むのかが心配になります。 しかし組合も同様に使用者がどのように団体交渉に臨むのか考えているはずです。組合は組合員の話しか聞いていないので、使用者に不当に悪感情を持つこともよくあることです。ですから団体交渉がとげとげしい雰囲気になるのも無理からぬことなのです。
したがって、使用者は団体交渉はそんな雰囲気から始まるのが一般的だと考えて団体交渉に臨み、落ちついて組合と話し合う姿勢を基本とすべきです。

(2)落ちついて話し合うためのテクニック
交渉場所には、早めに行って設営の準備をすべきです。はじめての場所には早めに行って机をセッティングするなどの必要が出てくる場合がありますし、余裕を持って現地に入り組合員を待ったほうが緊張しないで済むからです。
座る場所は、なるべく入口側にすべきです。何らかの事情で会社側が退席する場合にすぐに出やすいからです。
組合の出席者が勝手に話を始めて収拾がつかなくなったら、「話の整理ができず、時間が無駄になる」と言って、組合員に不規則発言や脱線した話をしないように求めるべきです。また、組合の代表者にも発言を整理するように求めるべきです。組合員は組合の交渉の代表者の意見には従うからです。
組合幹部は組合員の手前、過激なパフォーマンスをすることもありますが、「落ちついて話し合えないなら退席しますよ」と警告しましょう。
それでもこのようなパフォーマンスがすぐに収まらない場合には、団体交渉を中断し退席すべきです。事前に交渉担当者の統括者の合図があれば、一斉に退席することを打ち合わせておくとよいと思います。
使用者側が要求を呑まない場合、ビラをまくと脅す場合がありますが、組合も費用対効果を考えるので常に実行するわけではありません。ですから、そこで狼狽しないようにしてください。ただし、決して「やれるならやってみろ」と挑発するような発言はしないでください。このような挑発をすると組合がメンツにかけて行動に出る場合があるからです。
また、組合が使用者側の法令違反を監督官庁に持ち込むと主張することもあります。法令違反についてはなるべく使用者側も早期に対応すべきです。ただ、会社の経営状況が苦しく、簡単に法令違反を是正できない場合(例えば社会保険の加入問題など)は、その事情を組合員にじっくり説明すべきです。

ポイント

2.初回の団体交渉での注意点

 団体交渉のルールや論点整理が書面のやりとりなどで十分できていない場合は、論点整理会ないし団体交渉準備会という名目で、少人数の会議を組合と開く場合もあります。しかし、組合は使用者が団体交渉に入るのを避けるためにこのような会議を開くと考える傾向があります。したがって、使用者が団体交渉準備会などと主張しても組合は団体交渉として臨むことも多くあります。
初回の団体交渉は、労使双方の出席者の紹介→組合側から団体交渉事項の説明→使用者側の回答→質疑応答の順で進行するのが一般的です。
使用者側の回答は、組合にとって不満なことが多いので、初回は組合側の話を聞くことが中心になります。
例えば、解雇撤回などの主張は、労働者の情緒面の感情(不安、ストレス、怒り、苛立ちなど)から使用者に対する欲求(例えば会社に謝ってもらいたい、経済的な問題を何とかしてもらいたいといった潜在的欲求)が生じ、それを法的に構成したものです。ですから、解雇撤回などの表面的な主張の背後の事情を十分聞くと、労働者の精神面がある程度安定して落ち着いて話合いができ、周辺事情を含め厚みのある情報が組合側から収集でき、場合によっては落としどころを探れるようになります。
人は、自分の話を聞いてくれる人の話は聞きますが、自分の話を聞かない人の話には耳を傾けないものです。これは団体交渉でも同じです。組合の話を聞くためには、前述のように統括者と記録をとる人間とに分け、統括者は話に集中してメモをとらず、話を聞いてあげるといった工夫も必要です。
もっとも、話を聞くということと、話に同意することとはまったく別物です。組合や組合員はこのように考えるのかと思うことが大事であり、彼らの主張どおりにする必要がないのは当然のことです。

ポイント

3.第2回交渉以降の注意点

(1)使用者側の主張テクニック
ある程度争点がはっきりしている場合や回答できるものがある場合は、第1回の団体交渉から話を聞くだけではなく、ある程度の回答を準備すべきです。特に第2回以降は、やはり使用者の回答が中心になってきますから、使用者の主張もはっきり根拠を付けて話す必要があります。
はっきりと使用者の主張をするためのテクニックとしては、以下①から⑨で説明します。

 ① 使用者側の主張する人と使用者側を統括し発言する人を分けるという方法があります。会社側の厳しい主張をする役の人とまとめ役(統括者)を別の人にするのです。このようにすると、統括者に対し組合の反発が少なく、話がスムーズに進む場合があるからです。

 ② 使用者側の主張をする前に統括者が「厳しい話になると思いますけど、会社側の考えをこれから話します」とか「組合員の皆さんの気に触る話かもしれませんが」などと言って、一応相手に気持ちの準備をしてもらってから話をすると、比較的組合もおとなしく騒がず聞いている場合が多いといえます。

 ③ 問題に対して強固な対応が必要なら、相手に対しては柔軟な対応をする、交渉相手を尊重するということが必要です。例えば、会社としては厳しい主張をするのであれば、あいさつをするなり、丁寧な受け答えをするなり人としては尊重しておくことが必要です。人間的なところでこじれてしまうのは一番よくありません。

 ④ 人と行為の分離ということがあげられます。例えば、解雇問題になると使用者も労働者がとんでもない人間だと人間攻撃に近い主張をすることがあります。この場合も、「あなたの行為が悪いのであって、使用者としてはこういう判断をした」と主張し、あくまで行為に焦点を絞って、その人を非難するような言い方は避けるべきです。

 ⑤ 事実関係の食い違いがあれば指摘すべきですが、考えや見解が違う場合には、組合の考えは間違っているというより、使用者側としてこのように判断しているという形式で話すほうが組合としては聞き入れやすいと思います。

 ⑥ 経営判断に関しては使用者に従うのが筋であるということを熱く語るのも大事です。「社長のやり方がこうだから会社がおかしくなるのだ」という組合員もいますが、「それを最終的に判断するのは社長でしょ」と話してもよいと思います。組合も経営判断事項については、比較的批判しにくい部分だからです。

 ⑦ 組合が使用者に効果的な反論ができる部分はあえて無理な主張はせず、積極的に主張しないということも大切です。組合には、組合から反論が出ても十分再反論ができる部分を中心に主張すべきです。組合の反論容易なところを主張すると組合が攻め立ててくるからです。

 ⑧ 使用者側の主張の途中に組合員が反論し始めたら、「こちらの主張が終わった後まとめてお聞きしますからお待ちください」とか、「それについてもこれからお話します」などと話して、ひとまず使用者の主張をしきることがポイントだと思います。

 ⑨ 団体交渉ではその場で様々な議論がなされるので、使用者側が組合に十分反論できない場合もあります。この場合無理して説明するより、後日、正確な内容の反論を書面で組合に送る方が効果的です。

(2)議論が白熱してきた場合の注意点
議論が白熱してくると、感情的な対立が出てきて、その場で和解の芽がつぶれてしまう場合もあります。そこで、適宜休憩を入れたり、時間制限をしっかり行うことによってこれを避ける必要があります。

(3)落としどころを探るためのテクニック
使用者と組合の主張が異なっているが、落としどころを見つけて決着できるか探りたいという場合もあります。この場合でも使用者側が組合との妥協点を見つけようと闇雲に提案するのは得策ではありません。まず、使用者側の主張をすべきです。その主張もできれば組合もむげに否定できない組合と使用者の共通の利益や原理原則に即したものが望ましいといえます。このような議論をしている中で、共通の利益や原理原則を維持しつつ、どのような代替策があるのかの議論に移っていくのが自然です。ただ、代替策が金銭に関係することなら、まず組合からの提示を待つのがよいと思います。最初から金銭の話をするとどんどん金額が上がる可能性があるからです。
例えば、組合が配置転換を争っている場合、組合と使用者の共通の利益である雇用維持という観点から、使用者から一方的に当該組合員の退職に向けた話をするのではなく、配置転換に応じるように粘り強く主張し、議論の中で配置転換を組合に是認してもらうための手当や社宅などの話をしていくのが望ましいといえます。それでも組合がどうしても雇用関係を解消したいと言ってきた場合に、組合から金銭請求をさせます。
もっとも、その場合でも組合の金銭請求(特に退職の場合)はかなりの金額にのぼるのが通常です。その場合は、弁護士にも相談して司法手続に至った場合の相場も頭に入れて粘り強く交渉を継続すべきです。

(4)議論が平行線をたどっている場合の打開策
当事者が参加している団体交渉の席では、使用者も組合も主張を譲らず議論が平行線をたどる場合があります。こういう場合は論点整理を当該組合員を入れずに行うという方法があります。「論点整理を一度してから、団体交渉に戻しましょう」と言うと、比較的組合も応じやすいといえます。このようにすると、当該組合員を外し、闇取引をしているという印象がなく、当該組合員も納得しやすいからです。「論点整理をしましょう」と言うと、組合の方もピンときて「そうですね、私と会社側の代表だけで一度やりましょうか」という話をするケースが多いといえます。
ポイントは、使用者側から論点整理後団体交渉に戻し、闇取引をするのではないということを当該組合員にわかるように話すことです。
議論が平行線をたどっている場合には、労働委員会のあっせんで解決の途を探るという方法もあります。組合との間で話をまとめたいが当事者間の団体交渉だけではまとまらないというとき、特に利用価値があります。あっせん申請は組合も使用者もできます。あっせんについては、後で詳しく説明します。

(5)論点整理会(団体交渉準備会)の注意点
論点整理会(団体交渉準備会)も法的には団体交渉として扱われて、誠実交渉義務が存在します。その論点整理会の目的は、まずは、組合の考えている落とし所を探ることです。使用者が考えつかなかったような落とし所のヒントが出てくる場合もあります。しかし、団体交渉が平行線をたどっている中で行われる論点整理会では、落とし所がすぐに発見できない場合もあります。その場合でも、組合は今後どういう展開を考えているのか、当該組合員の個別事情(誰が妥協的ではないのか、何が納得しない要因となっているのかなど)について情報を入手すべきです。また、論点整理会では多少雑談ができれば組合の交渉担当者の人柄もわかるので有益です。
当該組合員がなかなか妥協的ではない場合は、論点整理会を開いても直ちに解決に結びつきません。その場合は、団体交渉に戻すなり、労働委員会のあっせんを利用するなりして、論点整理会に固執しないことが肝心です。また、組合の交渉担当者が、主張を拡大し話をエスカレートしてくる場合もあります。このような場合も労働委員会のあっせんの利用などを考えるべきです。

(6)組合幹部と組合員とで温度差がある場合の注意点
組合幹部が使用者の話に耳を傾け、組合員を説得しようとしている場合でも、組合幹部と組合員との間に温度差があると、組合員が組合を脱退して別行動をとることがあります。
弁護士に依頼して法的手続をとったり、別の組合に加入したりする可能性があります。ですから、このようなケースは要注意です。このような場合は無理をして話をまとめようとせず、組合から労働委員会のあっせんを申請してもらい、そこでまとめることも視野に入れるべきです。
また、当該組合員が組合を脱退して別行動をとる場合に備え、少なくとも組合との交渉経過を残しておく必要があります。組合との交渉経過は、その後の手続きでも使用者の誠実交渉の証拠となったり、和解の一資料となったりするからです。

(7)助成金・給付金の利用の検討
組合との間で金銭解決が中心課題になってきた場合は、公の助成金や給付金を利用すれば、使用者側の負担が軽くなる等、妥結できる場合もあるのでぜひ検討すべきです。例えば、雇用調整を行わなければならない場合は、雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金によって、休業出向の使用者側の負担を軽減できます。また、高齢者雇用継続給付を利用すれば、高齢者の継続雇用について使用者の負担を事実上軽減できます。

ポイント

7.落としどころ探る場合の留意点
(平成22年5月15日、D法律事務所にて)

部長組合と3回団体交渉をしているのですが、こちらも不況に伴って雇止めをしなければならない必要性など説明してきたのですが、組合側が再雇用という建前論を主張し、話がまとまりません。このような場合はどうなるのでしょうか。

弁護士前回もお話ししたように、使用者は、誠実に団体交渉をする義務を負いますが、組合の要求ないし主張を容れたり、それに対し譲歩をしたりする義務まではありません。十分な議論の後に双方の主張がなお対立し意見の一致を見ずに交渉打ち切りになる場合は誠実交渉義務違反となりません。そうした場合、組合は、労働委員会のあっせんという手続きをとってくる可能性があります。あっせんは、労使の意見の一致が見られず労働争議が起きるか起きうる状態のときに、当事者双方または一方の申請に基づきなされるものです。組合側のあっせん申請によって開始される場合がほとんどですが、会社側はあっせんに応じる義務があるわけではありません。 しかし、実務上は会社側があっせんに応じる場合が多いと思います。あっせんに応じること自体が誠実交渉を尽くしていることにもつながるからだと思います。またあっせんが開始されたからといって、まとまりそうもない事案では、あっせん員があっせん案を出すことはほとんどありません。

部長あっせん員とはどのような人が選任されるのですか。

弁護士労働委員会の会長が指名しますが、労働委員会事務局員が指名される場合も多くあります。

部長当社としては、紛争が長引くのは避けたいので、金額にもよりますが金銭解決を含め考えているのですが、何かアドバイスはございますか。組合と本音の話をしたいのですが。

弁護士組合幹部に電話をして少人数での話し合いを提案してみてはどうでしょうか。組合と金銭解決をした場合の問題は雇止めを受け入れつつ組合にも加入しなかった5名への影響です。組合との金銭での解決ができた情報が流れると、組合に加入していなかった人が組合に加入し金銭請求をしてくる可能性もあります。金銭的解決の場合、解決金の支払い方法を組合への一括払いにするとか、交渉内容を一切口外しないような一筆をとるとか、いろいろ工夫することが必要です。紛争の拡大防止のために、組合側からいろいろな提案が出る場合もあります。くれぐれも、会社側から「妥結後当社を辞めた契約社員を新たに組合に入れて団体交渉をするのは辞めて欲しい」というのは避けてください。不当労働行為になると言われかねません。

部長組合と会社との間で和解案に乖離があってなかなか溝が埋まらないという場合はどうしたらいいでしょうか。

弁護士御社もある程度の譲歩をしてでも話をまとめようとするなら、御社から労働委員会のあっせんを申請するという方法があります。

部長なるほど。先生のアドバイスに従い組合と交渉してみます。

ポイント

8.労使協調の合同労組に対する留意点
(平成22年6月15日、D法律事務所にて)

部長先生ありがとうございました。おかげさまでAユニオンとの交渉は妥結しました。先生のおかげです。ところで、当社で雇止めにならなかった契約社員のうち5名が賃金の引き上げを要求して別の合同労組E労働組合に加入したのです。5名の中には会社に批判的な急進派が2名ほど入っています。

弁護士私も、E労組とは交渉したことがあります。ここは使用者側の話も十分に聞きます。こういう組合には、会社側の考えを十分伝えれば、むしろ急進派組合員の説得役を引き受けてくれる場合もあります。

部長そうですか。では安心して良さそうですね。

弁護士油断はできません。急進派の組合員がE労組を飛び出して他の合同労組に加入するということもありえます。したがって、ひとまず今までお話しした定石に沿った交渉をしてください。

部長わかりました。今後もご指導下さい。

弁護士またご相談下さい。

ポイント

KAI法律事務所の目指すもの
奈良弁護士
本来企業は、従業員の力を最大限に発揮させ、社会のニーズに応えて存続していくことを目的としているはずです。企業は人により大きく価値が変わります。従業員との間にトラブルがあると上がるはずの価値が停滞または下がる可能性があります。
KAI法律事務所は、企業が従業員の力を最大限に発揮させ社会のニーズに応え続けられるように、法令面のみならず経営戦略や倫理的な観点さらに従業員のメンタル面からもアドバイスをさせて頂きます。御社の労務トラブルを解決するだけではなく企業価値を上げるためにKAI法律事務所にお任せください。お任せいただいたお客様から喜びの声を頂戴しております。次は御社の番です。
弁護士 奈良恒則