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参考資料:あっせん手続の実際

  1. 労働紛争のあっせん手続の種類
  2. あっせん手続の運用状況
  3. 都道府県労働局によるあっせん手続
  4. 都道府県の労政主管部局の行うあっせん
  5. 個別労働紛争に対する労働委員会のあっせん
  6. 集団的労働紛争に対する労働委員会のあっせん
  7. 紛争調整委員会のあっせん事例
  8. 労働委員会のあっせん事例(集団的労使関係の場合)

1.労働紛争のあっせん手続の種類

労働紛争において、行政のあっせん手続が利用されることが多くなっています。
個別労働紛争(労働関係における従業員と会社との間の紛争)について、解決のための行政のあっせん手続としては、個別労働紛争解決促進法に基づき、
①都道府県の労働局ごとに置かれる紛争調整委員会のあっせん
②一部の都道府県労政主管部局の行うあっせん ③労働委員会の行うあっせんがあります。
集団的労働紛争(労働関係に関する労働組合と会社との間の紛争)について、行政のあっせん手続としては労働関係調整法に基づき、 ④労働委員会の行うあっせん があります。 集団的労働紛争といっても、従業員が会社と労働紛争が生じた場合に、合同労組に駆け込み、合同労組がこのあっせん手続を利用する場合が多いので、実態としては個別労働紛争に近い紛争のあっせんが多くを占めていると言われています。

2.あっせん手続の運用状況

あっせんの運用状況は、PDFアイコン図表1)PDFアイコン図表2)の通りですが、労働局の紛争調整委員会のあっせんが前記4つのあっせんの中では一番多く利用されており、平成20年の新規係属件数は8,457件で4つのあっせんのうち約80%を占めています。また、平成19年に比べて新規受件数が約18%増加しています。しかし、解決率は、36.1%で4つのあっせんの中でもっとも低くなっています。
都道府県労政主管部局で行うあっせんは、新規受件数が若干減少傾向にあるようです。しかし、解決率は4つのあっせんの中でもっとも高く、平成20年度は67.8%となっています。
個別労働紛争の労働委員会のあっせんは、解決率が61.0%に上っています。ただし、東京都、兵庫県、福岡県では行っていません。東京都の場合、個別労働紛争のあっせんについては、産業労働局の労働情報相談センターのあっせんに誘導しているようです。
集団的労働紛争を扱う労働委員会のあっせん手続は、新規係属件数が546件で前年比約17%の増加を示しています。また、調整事件全体の解決率は59.3%となっています。

3.都道府県労働局によるあっせん手続

4つのあっせんの概要は10ページのPDFアイコン図表3)の通りですが、件数の多い労働局のあっせんについてまず説明します。

(1)経  緯

平成10年の労働基準法改正により、都道府県労働基準局が労働条件について解決援助機能を持つこととなり、さらに、平成13年10月に成立した個別労働紛争解決促進法において、国が

ポイント1

を行うものとされ、他方、地方公共団体においても、都道府県労働委員会等により個別労働紛争のあっせん等の調整を行うことができるという制度が採用されました。

(2)紛争解決の3つの制度

都道府県労働局では、労働問題に関する専門性を生かした無料の労働紛争解決援助サービスとして、・相談・情報提供〈総合労働相談コーナー〉、・助言・指導〈都道府県労働局長による解決促進〉、・あっせん〈紛争調整委員会による調整・解決〉という3つの制度を提供しています。

(3)紛争調整委員会によるあっせん

①概  要
紛争調整委員会によるあっせんは、弁護士、大学教授等の学識経験者である第三者が公平・中立な立場で紛争当事者の間に入り、当事者双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話合いを促進することにより、円満な解決を図る制度です。また、両当事者が希望した場合は、具体的なあっせん案を提示することもできます。
紛争調整委員会は、都道府県労働局ごとに設置されています。この紛争調整委員会の委員のうちから会長が事件ごとに指名する3人のあっせん委員が、紛争解決に向けてあっせんを実施します。

②あっせんの対象となる事件  労働条件その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争があっせんの対象となります。
なお、雇用機会均等法およびパートタイム労働法上の紛争については、各法律が定める紛争調整委員会による調停制度によることになります。

③あっせん申請書の提出  申請は、紛争当事者である労働者および事業主の双方、労働者または事業主の一方のいずれからでも可能です。
あっせん申請書には

ポイント2

を記載します。「その他参考となる事項」としては、訴訟係属の有無、確定判決の有無、他の行政機関での手続きの係属の有無、労働組合と事業主との間の紛争の有無などの情報の記載が求められます。

④事実確認のための調査の実施  申請の受理後、紛争調整委員会の会長は、あっせん委員3名(学識経験者)を指名します。その後、紛争当事者双方に対してあっせんを開始する旨および当該事件を担当するあっせん委員の氏名の通知がなされます。
次に、紛争調整委員会による相手方に対し事情聴取がなされます。
あっせんの相手方としては、この事実確認の調査の際に、またはあっせんの期日までに、あっせん委員に対して、相手方としての主張・考えを明らかに行うため、あっせん開始通知書とともに送付される連絡票を利用しての回答や答弁書・意見書の提出、主張を裏付ける資料の提出等を行うことになります。あっせんの期日は1回しか設定されないことがほとんどですから、早期の準備が必要になります。

⑤期日におけるあっせんの実施  あっせんは、原則として紛争当事者の出席を求めて行われます。期日については、紛争当事者の希望を考慮してあっせん委員が定めます。あっせんは、紛争当事者の任意の合意に基礎を置くものであるため、出席も強制ではありません。

あっせん委員は、双方の主張を聞き、紛争当事者の話合いを促します。また、その中で、紛争当事者の一方または双方に譲歩を求めたり、具体的な解決の方策を打診したりして紛争の解決に努めます。
あっせん委員は、必要に応じてあっせん案を作成して紛争当事者に提示することができます。
あっせん委員は、あっせんによっては紛争の解決が見込めないと認めたときは、あっせんを打ち切ります。

⑥使用者側の対応について  労働者が労働局に申し立てるあっせん事項は、ある程度法的な筋が通っているものから、およそ法的には認められないものまで様々です。使用者にとっては言いがかりともいえる事項もあります。
そこで、使用者としては、

ポイント3

などの観点を総合的に検討し、あっせんに参加する・しないをまず判断することになります。仮にあっせんに参加しない場合でも、紛争調整委員会にあっせんに参加しない理由を説明したほうがよいでしょう。無視すると労働局からの使用者に対する印象がよくありません。仮にあっせんに参加する場合は、期日は原則として1回ですので、答弁書・意見書の準備および和解案を出す場合にはその準備までを、期日に間に合うように行う必要があります。

4.都道府県の労政主管部局の行うあっせん

(1)東京都労働相談情報センターの場合

東京都は、産業労働局の出先機関として都内6カ所の労働相談情報センターで常時労働問題全般について相談を受け付けています。労働相談情報センターが行っているあっせんは、労働相談を受ける中で、労使だけでは自主的な解決が難しい問題について、労使からの調整してほしいとの要請を東京都が受けた場合に、労働相談情報センターが第三者としての立場で労使間の自主的な解決に向けて手助けを行うものをいいます。なお、集団的労使紛争については取り扱いません。
平成20年のあっせん件数は677件で、うち464件が解決し、あっせんの解決率は68.5%です。平成20年のあっせん項目としては、解雇が20.5%、賃金不払いが14.8%、退職が11.2%を占めています。あっせんを行うのは、東京都の場合、労働情報相談センターの職員です。双方の主張の歩み寄りにより合意できれば解決しますが、合意できない場合はあっせん打切りとなります。

(2)大阪府の場合

大阪府の場合は、労政主管部局の出先機関である総合労働事務所と大阪府労働委員会が連携をしています。まず総合労働事務所に労働相談があった個別労使紛争のうち、自主的解決が困難なものについて、総合労働事務所の調整員(職員)が調整(あっせん)を行います。総合労働事務所の調整が不調になった場合に、労働委員会のあっせんが実施される場合もあります。

(3)使用者側の対応について

おおよそ紛争調整員会のあっせんにおける使用者の対応に準じればよいでしょう。

5.個別労働紛争に対する労働委員会のあっせん

(1)概  要

労働委員会は、集団的労使紛争の解決機関として設置されたものですが、平成13年施行の個別労働紛争解決促進法により、新たにそれ以外の個別労働紛争についてあっせん手続等による調整的権限も、都道府県労働委員会に認められるようになりました。
あっせん員は、公労使の三者の代表が指名されます。
都道府県労働委員会の個別労働紛争に関するあっせんの具体的な手続きですが、進め方は労働争議のあっせん手続と同様、委員が当事者等から事情を聴取し、双方の主張の要点を確かめ、場合によっては、双方に対しあっせん案(解決案)を提示する手続きであることは共通しています。ただし、東京都、兵庫県、福岡県の労働委員会では個別労働紛争に対するあっせん手続を設けていません。

(2)対象となる事件

広く労使間の個別労働紛争が対象となります。

(3)手続きの特徴

都道府県労働局の紛争調整委員会のあっせん手続とは、個別労働紛争について行うこと、あっせん員が当事者等から事情聴取し、争点確認を行い、双方に対しあっせん案を提示する点で共通しています。
ただし、労働委員会のあっせん員は、公益委員のほかに、労働者側、使用者側の委員の三者構成となっていることが多く、このような委員構成をとらない都道府県労働局のあっせん手続とは異なっています。

(4)使用者側の対応について

おおよそ紛争調整員会のあっせんにおける使用者の対応に準じればよいでしょう。

6.集団的労働紛争に対する労働委員会のあっせん

(1)概  要

労働委員会は、労働関係調整法により、労使間に発生した労働争議の調整の権限を持つ機関として設置され、ストライキやロックアウトなど労働争議が起きた場合に、あっせん・調停・仲裁を行う権限(労働争議の調整手続)を有しています。この手続きは、個別労働紛争の解決手段としては利用できないのではないかという疑問が生じます。しかし、解雇処分など、それ自体は個別労働紛争であっても、労働組合がこれらの撤回を求めて団体交渉を行ってきたような場合には、労働争議の調整手続が解決方法として利用できます。
使用者側とすれば、単なる個別労働契約上の争いにすぎないとの認識であっても、労働組合または労働者が、これらの手続きを利用してきた場合には、その手続き内で対応しなければなりません。調整手続としては、上記の通りあっせん、調停、仲裁がありますが、近年はあっせんがほとんどを占めています。あっせんが労働委員会の調整手続の主役を占めているのは、一方当事者の申請のみで開始でき、当事者間の交渉を取り持つだけではなく、争点の煮詰まり具合によって解決案を提示するという調停の機能も果たしているからです。

(2)対象となる事件

対象となる事件は、「労働争議」です。この「労働争議」とは、「労働関係の当事者間において、労働関係に関する主張が一致しないで、そのために争議行為が発生している状態または発生するおそれがある状態」をいいます。「労働関係に関する主張」には、個別的労働関係に関する主張と集団的労働関係に関する主張のいずれも含まれます。
したがって、従業員が合同労組に駆け込み、その従業員と会社との間の個別的労働関係についての調整も対象となります。

(3)手続き

① 当事者からあっせんの申請があると、労働委員会の事務局職員が、申立人から争点、申請書記載事項のうち不明な点、あっせん員の希望、第1回あっせんの希望日を調査します。
② 次に、労働委員会事務局職員が、相手方(主として使用者側)にあっせんを受けるかどうか、争点についての考え方、あっせん員の希望、第1回あっせん日の希望を調査します。相手方があっせんに応じない場合は、あっせんを打ち切ることになります。
③ 労働委員会の会長は、あっせん員候補者(労働委員会委員および事務局職員)からあっせん員を指名します。東京都の場合、当事者から特に希望がなければ事務局職員を2名程度指名する例が多く見られます。事務局職員のほうが労働委員会委員よりあっせんに手慣れているという評価もあります。また、公労使三者委員があっせん員に選ばれることもあります。
④ 具体的なあっせん作業について(東京都の場合)は、期日に労使双方が呼び出され別々の部屋で待機します。その後あっせん員が申立人、次に相手方の順で事情を聞きます。東京都の場合は、あっせん員が当事者双方の控室を行き来するパターンが多いようです。その過程で、紛争の争点を確かめ、主張のとりなしをしてあっせん案を提示することがあります。あっせん案は、当事者双方の折り合いがつけられる可能性が出てきた段階で出されるのが通常です。当事者双方の折り合いがつけられる可能性がなければ、あっせん案も出されずにあっせん打切りとなることもあります。また、あっせん員は団体交渉で解決の余地があれば団体交渉の継続を勧めたり、場合によっては団体交渉に立ち会ったりします。

(4)使用者側の対応について

労働組合が申し立てるあっせんは、他のあっせん申立に比べてまったくの言いがかりというものは少ないと思われます。したがって、あっせんに参加しなくとも紛争が解決するという見込みがあるなどの事情がない限り、使用者としてはあっせんに参加し解決を図るほうが無難です。仮にあっせんに応じない場合にも、理由をしっかり労働委員会には説明すべきです。「理由なく話合いに応じようとしない会社」とのレッテルを貼られることを避ける必要があるからです。

7.紛争調整委員会のあっせん事例

A社は正社員10名、1年契約の社員5名を雇用する運送会社だが、平成22年1月16日に1年契約の契約社員として雇われたBは、同年9月1日に上司の課長Cに呼び出され「やる気がないなら辞めたらどうか」と言われ口論となり、「辞める」と発言し、以後出社しなくなった。
その後、BはA社あてに解雇予告手当を支払えという内容の書面を送ってきたので、A社の社長Dは、解雇をしたわけではないが、Bの退職の意思をはっきりさせる意味で9月7日に解雇予告手当をBに支払った。その後、Bは○○県労働局の紛争調整委員会に個別労働紛争のあっせんを申請し、不当解雇を理由として3カ月分の給与相当額の損害賠償を請求してきた。同委員会よりあっせん申立書PDFアイコン図表4-1)が同年10月1日にDに届いた。驚いたDは、顧問の社会保険労務士を通じてE弁護士を紹介してもらい、相談することになった。

(平成22年10月7日 E法律事務所にて)

社長...というわけで、あっせんについてどのように対応したらよいのかご相談させてください。あっせんというのは参加しなければいけない手続きでしょうか。

弁護士あっせん手続に参加するかしないかは会社の自由です。参加しない場合は、紛争調整委員会にあっせん不参加を通知しておく必要があります。

社長紛争調整委員会の事務局からも参加するのかしないのか電話がありました。参加したほうがよいでしょうか。

まず、あっせんに参加するということは会社として何らかの譲歩、例えば金銭の支払い等が前提になる場合が多いです。良い悪いは別として、委員会のほうからあっせんに参加する予定の会社には、和解案があるのか事前に問い合わせてくる場合もあります。「譲歩するつもりはない」と言うと、あっせんの期日を入れずにあっせんを打ち切る場合もあります。ただし、運用は各委員会によって違うので、そこまで厳しくない委員会もあります。
仮に譲歩するつもりがない場合でも、労働者に会社からしっかり説明をする機会としてあっせんを利用する場合があります。
譲歩して話をまとめたほうがよい場合としては、あっせんが打切りとなった後に労働審判などの法的手続が申し立てられ、会社が負ける可能性が高い場合が挙げられます。ご相談の件については、「辞める」と言って出社しない以上、退職の意思表示があり合意退職が成立したと考えられますが、C課長が「やる気がないなら辞めたらどうか」と話している点、解雇予告手当を支払っている点でBの退職は解雇とされる余地があります。解雇の場合、客観的に合理的理由がなく、社会通念上相当なものと言えない場合は解雇権の濫用として無効となります。

弁護士それならば、Bが不当解雇と言うなら復帰させるという和解案をあっせん手続で提案してはどうでしょうか。

社長Bを職場に復帰させる余地はありますか。
当社としても積極的にBに辞めてもらいたいと考えているわけではありません。
くせのある人ですが、仕事ができないという人ではありません。

弁護士それならば、Bが不当解雇と言うなら復帰させるという和解案をあっせん手続で提案してはどうでしょうか。

社長そうですね。なんで自分から退職した人にお金を出す必要があるのかと思っていたので...。働いてもらえばいいのですね。

弁護士ただ、Bは復帰を提案されても拒否する可能性もあります。働いてくださいと言っているのに、「いや、辞めたい」という人にお金を出す理由はないので、復帰の提案は仮にBがそれを拒否しても会社にとってメリットが大きいと思います。

社長あっせん申請書への対応については、あっせんの当日に反論も含めて行えばよいのでしょうか。

弁護士紛争調整委員会の事務局があっせん期日の前に社長から意見を聴取することもありますし、それに代えてあっせん申請書に対する御社の意見を書面の形で出すこともできます。

社長書面の場合、どのような内容を書くのでしょうか。

弁護士特に決められた書式はありませんが、ひな形は以前に作ったことがありますので、お聞きした範囲で書面を作って後日お送りします。参考にしてくださいPDFアイコン図表4-2)。書くべき実質的な内容は、①あっせんを求める事項に対する答弁、②あっせんを求める理由に対する認否、③紛争の経過に対する認否、・会社の主張が主なものです。
①あっせんを求める事項に対する答弁は、本件の場合、相手が3カ月分の賃金相当額の支払いを求めているのでこれは認めないと書けばよいと思います。
②あっせんを求める理由に対する認否では、Bが辞めたいと言ったので辞めてもらっただけで解雇ではない、解雇予告手当もあくまで会社がBの退職の意思をはっきりさせ退職の合意をする意味で送ったものだと書けばよいと思います。
③紛争の経過に対する認否では、C課長の言動は決して退職を本気で勧めたものではないこと、解雇予告手当の支払いも解雇したことを根拠とするものではないことを丁寧に説明するようにしてください。
④会社の主張としては、Bの退職の意思表示を受けて会社が金銭を支払うことで退職の合意ができたものであって、解雇ではないことを強調する必要があります。また、Bの職場復帰を認めるのであれば、その旨も記載しておけばよいと思います。

社長わかりました。大変参考になりました。

(平成22年10月15日 労働局にて)

D社長は、会社側の控室に通される。まずBの意見を先に聴取するということで、D社長はしばらく待機することになる。その後、紛争調整委員会の事務局職員の案内であっせんを行う部屋に入る。D社長が意見書に沿って会社側の意見を詳しく述べる。

弁護士会社側の考えは、よくわかりました。会社としては、3カ月とは言いませんが何らかの金銭を支払うことで解決する余地はありませんか。このような段階で申立人が職場に復帰するというのも考えにくいので...。

社長お金を支払うつもりはありません。不当解雇というなら直ちに復帰してもらうようにしてください。

弁護士わかりました。申立人に聞いてみましょう。控室でお待ちください。

あっせん員が申立人から事情を聴いた後、D社長が呼ばれる。

弁護士申立人から意見を聞きましたが、復帰には同意しないということです。あっせんは打切りとします。

社長(平成22年12月20日 E法律事務所にて)

社長あっせんが打ち切られたのですが、その後Bからは特に次のアクションはありません。

弁護士Bは、会社がBの復帰を認めることはないと考え、賠償請求をしていたので、なかなか解雇無効を理由とした労働審判なども申し立てにくいのではないでしょうか。ですから、このまま何も起こらずにBの件は終わる可能性があります。

社長わかりました。様子を見てみます。

8.労働委員会のあっせん事例(集団的労使関係の場合)

株式会社甲は、企業の人材育成コンサルタント会社であるが、平成20年4月に社員乙を年俸600万円(月額50万円)で採用した。その際、甲は乙との間で、時間外労働や休日労働をしたとしてもその賃金は600万円の中に含まれていると口頭で合意していた(基本給と時間外割増賃金の部分が給与明細で区別されていなかった)。
しかし、乙は成績が悪く年俸を平成21年1月から480万円(月額40万円)に減額された。その際、乙は社内メールで減額に同意した。
平成22年3月に乙は退職したが、同年4月になって乙は、合同労組丙に加盟し、その後、甲と丙との間で未払い残業代について団体交渉がなされてきたが決裂し、丙は、同年7月に労働委員会にあっせんを申し立てたPDFアイコン図表5-1)
そこで、甲の担当部長丁は、労働問題を使用者側の立場で専門に扱っているE弁護士を訪れ、アドバイスを受けることになった。

(平成22年7月10日 E法律事務所にて)

丁部長が顛末をまずE弁護士に説明した。

社長...というわけで、会社としては、乙とは時間外手当等込みということで年俸を定めていたので、未払い残業代の支払いには応じないと言っていたところ、交渉が決裂しました。そもそも、当社の主張は通るのでしょうか。

弁護士これについては裁判例があります。会社が年俸制として時間外割増賃金を含めた賃金の定め方につき、時間外割増賃金分を本来の基本給部分と区別できないため労働基準法37条1項違反であり、時間外割増賃金を支払う義務があるとされた事案です(大阪高判平14年11月26日)。御社の場合は、これに該当する可能性が高いので、時間外割増賃金を支払う必要があると思います。

社長そうだったのですか。そういえば、組合もそのようなことを言っていたような気がします。賃金の減額についてはどうでしょうか。

弁護士賃金の減額については、同意書はとっていますか。

社長とっていません...。

弁護士何か乙が賃金の減額に同意していたことがわかるようなものはありませんか。賃金減額の話は口頭だけで行ったのですか。労働条件の変更は原則として労使双方が合意しなければできません。労働条件の変更について、相手がそれに異を唱える場合は、裁判では変更がなされたと主張する側がまずその変更されたことを立証しなければなりません。労働委員会のあっせん員を説得するにも、証拠が必要だと思います。

社長口頭で話をしましたが、書面で説明してほしいと言われたのでメールでも説明しました。そういえば、乙から「減額は1年限りにしてほしい」とのメールが来て、それで決着しているつもりです。

弁護士そのメールは乙が賃金の減額に同意したことの証拠になります。賃金減額が有効であることは主張すべきです。それによって未払い賃金の額が大きく変わってきます。
ところで、このような未払い残業代の問題については、組合が団交決裂後、労働基準監督署に持ち込むこともあります。また、あっせんではなく労働審判の申立てや訴訟提起をしてくる可能性もあります。

社長それでは、あっせんで解決したほうがよいのでしょうか。

弁護士裁判所は、労働者の請求によって未払い賃金の他に、これと同一額の付加金の支払いを命じることができます。法的手続の場合、このリスクが出てきます。労働基準監督署に未払い残業代の件を労働者が申告すると、調査のうえ是正勧告がなされることもあり得ます。これには強制力はありませんが、これを無視すると労働基準監督官としては法違反として捜査のうえ、検察庁に事件が送られる可能性もあります。

社長なるほど、あっせんで解決したほうがよさそうですね。

弁護士未払いの時間外労働手当があれば支払うのですが、未払いの賃金額について労使で賃金の減額の有効性について争いがあることから差が生じています。そこについては、あっせんで十分話し合うべきでしょう。

社長わかりました。では、そのような方向であっせんに臨みたいと思います。ところで、あっせんのための準備としてはどのようなことをすべきですか。

弁護士まず、労働者側のあっせん申請書の内容に対する反論や御社の主張を事前に労働委員会に送っておくべきです。第1回目のあっせん期日に相手方が主張してきそうな点については答えを準備しておく必要もあります。あっせんの答弁書のたたき台をお作りしますので参考にしてくださいPDFアイコン図表5-2)

社長当日はどのように進行するのですか。

弁護士各都道府県の労働委員会によって差がありますが、東京都労働委員会の場合、まず使用者側と労働者側が別々の控室に待たされ、その間をあっせん員が行き来して話を調整するというパターンが多いと思います。

社長あっせん員があっせん案のようなものを出すのでしょうか。

弁護士労使の主張の差異が大きいとなかなかあっせん案を出すのは難しいと思います。あっせん案を出す場合は、それなりにその案でまとまる感触があっせん員に必要だと思います。

社長なるほど。そうするとあっせん員任せではなく、当方も譲歩の限界をあっせん員に示すなど、あっせん案作りに参加するつもりでないとまとまりませんね。しかし、労働組合がどこを落としどころに考えているのかまったくわからないので困ります。

弁護士あっせん案は、労使の主張、そして提案のやりとりの中で出てくる場合も多いと思います。

社長会社としては、譲歩できない部分もあります。それを組合に伝えるにはどうしたらよいのでしょうか。

弁護士あっせん員にその旨を話せば、相手側に伝えると思います。

社長あっせんに社長などは出席すべきでしょうか。

弁護士団体交渉の場合は、出席すべきでないと思いますが、あっせんの場合はケースバイケースです。第1回のあっせんはまず社長は出席せず、あっせんの状況を見て判断してはどうでしょうか。ただ、話がまとまりそうな段階になったら、出席したほうがよいと思います。団体交渉と違って、あっせんはあっせん員が仲介するので直接社長が矢面に立ちませんから。

ポイント4

(平成22年9月10日 E法律事務所にて)

社長先生、ようやく話が煮詰まってきまして、次回は、協定が成立しそうです。賃金の減額については組合も最後は了承しました。協定の際の注意事項は何かありますか。組合員に直接金銭を手渡すというのはなるべく避けたいのですが。

弁護士組合に解決金を支払うという形にしてはどうでしょうか。ただし、組合員個人と御社との間でも清算条項を入れて、組合員から再度金銭請求がなされないようにする必要があります。

社長協定の内容が他に漏れないようにできますか。

弁護士「口外禁止条項」を付けることは可能です。しかし、協定の内容が他に漏れるのを完全に防げるわけではありません。まず、協定の内容が第三者に漏れる可能性もあることを前提に協定書を作成したほうが無難です。先ほどお話したように、解決金を組合に支払う形にしたり、御社が間違いを犯したとか謝罪しているとか誤解される文言を避けたり、事件についてはその経緯を詳しく書かず、事件の特定に必要最小限度のことを記載するようにしたりする必要があります。また、相互に誹謗中傷しないといった義務を記載しておくと、御社が一方的に義務を負うといった印象を薄めることもできます。

社長わかりました。先生のアドバイスに沿って協定書の作成に臨みたいと思います。

ポイント5

(平成22年10月1日 E法律事務所にて)

社長先生ありがとうございました。協定がまとまりました。あっせんでまとめないと当社がさらに不利な状況になる可能性があったので助かりました。

弁護士組合との交渉事項については、団体交渉、あっせん、労働審判または仮処分と進んでいく可能性があります。そこで、先の見通しを立てつつどこで話をつけるのか・つけないのかを考えるのが大事なのです。

社長わかりました。今後もご指導ください。

ポイント6

【執筆者略歴】奈良 恒則(なら つねのり)
KAI法律事務所所長・弁護士。昭和58年中央大学法学部卒業。平成8年司法試験合格。平成11年弁護士登録〈第一東京弁護士会所属〉。経営法曹会議会員(使用者側労務弁護士)。第一東京弁護士会会社法部会会員。団体交渉を含む使用者側の労務問題、コンプライアンス、企業再生、会社法など企業法務を多く手がける。URL:http://www.komon-bengoshi.jp

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