参考資料:採用時の労務対策
1.従業員採用にあたって調査の限界はありますか。
① 本人の健康状態(精神状態)について、志望者に問いあわせることは、職務に耐えられるかなどの判断に必要と一般的採用時の労務対策に考えられるので可能ですし、その回答を拒否した場合、採用しないことも一般に問題は生じないと考えられます。また、健康診断の必要性がある場合、志望者の同意を得て健康診断を実施することも可能と考えます。
② 応募者に、同居の親族の健康状態等を問いあわせることも、転勤などが頻繁に考えられる場合には可能です。
2.採用内定の取り消しは自由にできますか
採用内定者は①採用予定者(労働契約が成立していないもの)と②採用決定者(労働契約が成立したもの)に分かれます。単に採用予定であると告げられているに過ぎないものは①採用予定者です。入社誓約書や身元保証書を差し入れた場合などは②採用決定者となります。採用予定の取り消しについては、会社は入社を義務づけられず単に損害賠償責任を負うにとどまります。しかし②採用決定者となると、その取り消しは解雇に該当し、合理的な理由がなければ認められません。
3.試用期間中の従業員の本採用を拒否することは自由にできますか。
本採用拒否は、留保解約権の行使つまり雇い入れ後における解雇にあたります。その解雇が認められるには、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用期間中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくことが客観的に相当ではないといえる必要があります。具体的には、勤務成績不良、業務不適格性、言動の不適格性、協調性のなさについては、試用期間中の者には厳しく判断されますが、当該企業がその者を適切に教育したのか否かも解雇の有効性に影響します。
4.労働契約締結の際,使用者が労働者に明示しなければならない労働条件にはどのようなものがありますか。
/ | 明示すべき労働条件 | 書面交付による明示事項 | パートタイム労働者(注) |
---|---|---|---|
① | 労働契約の期間に関する事項 | ○ | ○ |
② | 就業場所及び従事すべき業務に関する事項 | ○ | ○ |
③ | 始業及び終業の時刻,所定労働時間を超える労働の有無,休憩時間,休日,休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項 | ○ | ○ |
④ | 賃金(退職手当,賞与除く)の決定,計算及び支払方法,賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項 | ○(ただし昇給を除く) | ◯(昇給の有無を含む) |
⑤ | 退職に関する事項(解雇の事由を含む。) | ○ | ○ |
⑥ | 退職手当の定めが適用される労働者の範囲,退職手当の決定,計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項 | ― | ◯(退職手当の有無) |
⑦ | 臨時に支払われる賃金(退職手当除く。),賞与及び最低賃金に関する事項 | ― | ◯(賞与の有無) |
⑧ | 労働者に負担させるべき食費,作業用品その他に関する事項 | ― | ― |
⑨ | 安全及び衛生に関する事項 | ― | ― |
⑩ | 職業訓練に関する事項 | ― | ― |
⑪ | 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 | ― | ― |
⑫ | 表彰及び制裁に関する事項 | ― | ― |
⑬ | 休職に関する事項 | ― | ― |
※ | 期間の定めのある労働契約を締結した場合(更新する場合があるものに限る)上記に加えて | ||
⑭ | 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項 | ○ | ○ |
○...法律上の書面交付明示に該当、―...書面開示に不該当
注:いわゆるパートタイム労働法(正式名称:短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)における「パートタイム労働者」とは,1週間の所定労働時間が通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者をいいます。そのため,パートという名称であっても,通常の労働者と1週間の所定労働時間が同じである場合には,法律上は「パートタイム労働者」には該当しないことになります。
5.労働条件の明示をしさえすればよいのでしょうか。
労働条件を明示してもそれに労働者が応じたのか否かははっきりしません。また、使用者としては、労働者に守秘義務等を課したい場合もあります。従って、雇用契約を締結することが望ましいといえます。
6.期間の定めのある雇用契約について注意すべき点がありますか。
3年を超える雇用契約は、原則として禁止されています。また期間の定めのある雇用契約であっても、当事者間に当然更新を予定しているような契約の場合は、雇い止めが自由にできず、雇い止めに社会通念上相当な理由がなければ雇い止めは認められません。従って厳格な更新手続きが重要です。
7.有期契約労働者が期間の定めのない労働契約(無期労働契約)への転換できる制度ができたそうですが,会社としてはどのような点に注意する必要がありますか。
無期転換制度(労働契約法18条)とは,有期労働契約が更新され,通算契約期間が5年を超える有期労働契約を締結した場合,労働者に期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換する申込権が発生し,期間満了日までに申込みがなされれば,自働的に期間満了日の翌日から無期労働契約が成立するという制度です。
無期転換する申込権を有する労働者からの申込みに対しては,使用者は承諾したものとみなされてしまうので,使用者は一切拒否することができません。そのため,有期契約労働者の無期転換を望まない使用者は,あらかじめ無期転換の申込権が発生しないよう契約期間を調整する必要があります。
また,無期転換された場合の労働条件は別段の定めのない場合には,従前と同一とされます。有期雇用である代わりに待遇が無期契約労働者(正社員)よりも有利な労働条件が定められている有期契約労働者については,無期転換に伴い労働条件を正社員と同等に引き下げる別段の定めをしておく必要もあります。
KAI法律事務所は、企業が従業員の力を最大限に発揮させ社会のニーズに応え続けられるように、法令面のみならず経営戦略や倫理的な観点さらに従業員のメンタル面からもアドバイスをさせて頂きます。御社の労務トラブルを解決するだけではなく企業価値を上げるためにKAI法律事務所にお任せください。お任せいただいたお客様から喜びの声を頂戴しております。次は御社の番です。